- 2021.01.15
- メディア掲載
ジャパンタイムズに弊社とアーティストの記事が掲載されました
海外アーティストとアンサーノックスとの交流の記事が
ジャパンタイムに掲載されました。
以下の日本語訳を
ご一読いただけましたら幸いです。
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3人のアーティストはコロナ禍で地域の有名人になり
姉妹のような友情を築いた
ジャパンタイムズ 記者 尾崎智洋
山梨県甲府市にて
コロナウイルスのパンデミックは多くの人々に甚大な被害を与えたが、日本の郊外に足止めされた3人のアーティストは生涯にわたる友情を築き、地域の有名人になった。
先月テレサ・クレアさん、クララ・カンポスさん、オリアナ・マリンさんは、甲府市の広報誌の表紙を飾った。彼女たちは、地元メディアの取材を受けたり地元の人々から認知されたりと、ちょっとした有名人になっている。それは大変な時期に彼女たちを助け、結びつけてくれた、甲府市への恩返しのためのアートプロジェクトのおかげだ。親切への恩返しとして、これほど芸術的なものはないだろう。地域のコミュニティセンターの壁に壁画を描き、新たな命を吹き込んだのだ。ブラジル出身のアーティスト、女優でもあるカンポスさんは「人々はとても優しかったです。そして恩返ししたいという気持ちがずっとあります。皆さんは知り合うと、私達の健康を気遣ってくれました。『お腹が空いているなら余った果物をあげるよ』といったように」と語った。そして「私はまるでコミュニティの一部になったみたいです」と続けた。
3人はもともと甲府市で2020年はじめに行われたアーティスト滞在プロジェクトで知り合った。滞在は2,3ヶ月の予定だったが、コロナ禍は世界的な広がりを見せた。マリンさんとクレアさんの母国であるコロンビアは国境を閉じた。カンポスさんの母国ブラジルは国境を開いていたが、相次ぐ飛行機の欠航で帰国の途は閉ざされた。帰国困難な外国人旅行者の一人になった彼女らは、就労が出来るビザを持っていないということで苦境に立たされた。法務省出入国在留管理庁が帰国困難な外国人に対して「週28時間までなら労働できる」という措置を行ったのは11月であった(訳注:措置が始まったのは12月から)。有識者は、これは遅すぎたと言う。
だが、彼女たちは幸運にも甲府市で人材派遣業を営む「アンサーノックス」という会社の社長である渡辺郁さんと知り合った。渡辺さんは当時を以下のように語る。「(2020年)3月に行われた彼女たちの展覧会で3人に会ったときに『遅かれ早かれ彼女たちが帰国困難な状況に陥る』ということがわかりました。短期旅行者の身分のまま滞在延長では就労が許可されず、それではお金がなくなるのは必然です。だから彼女たちを手助けしようと思いました。」
最初は(写真に見られるような)壁画というアイディアではなかった。3名のアーティストたちの芸術的才能を活かそうと、渡辺さんは自身の似顔絵をそれぞれのスタイルで描いてみるように3名に頼んでみた。そして、3名のその作品をSNSで紹介したところ、それは結果的に彼女たちの苦境を人々に伝えることになった。
日本の妖怪や言い伝えにインスピレーションを得て作品を作るクレアさんは、渡辺さんを「アマビエ」に変身させた絵を描き、アイドルやアニメが大好きなカンポスさんは、カワイイ少女漫画のような可憐なイラストを、マリンさんは写実的な絵と日本の漢字で「親切」と書いたものを組み合わせた作品を作った。この似顔絵がフェイスブックに投稿されると、それは大きな反響を呼び、すぐに拡散された。
「似顔絵を書いてほしい」というリクエストは全国から届いた。似顔絵を書くことと引き換えに寄付金をもらうことにし、それを滞在の費用にした。お金以外の寄付も続々と渡辺さんのオフィスに届いた。3人が「恩返しをしたい」と思ったのも不思議ではない。
2020年10月のコミュニティセンターの「壁画プロジェクト」では、クレアさんがプロジェクトの指揮を取り、渡辺さんが甲府市との架け橋となった。壁画には「なでしこ」や「カワセミ」など甲府を象徴するものが描かれ、さらに友情や母なる大地といったテーマの絵も描かれた。
外国人アーティストが壁画を制作している光景は多くの人々の注目を集め、3人がコミュニティの一員になるのを助けた。
「アーティストたちが地域の人々への恩返しのために絵を描くという行為は、市民の皆さんに感動を与えたと思います。このプロジェクトは市民の方々とアーティストの間に絆を作ったのではないでしょうか。」と市の職員の林 勝さんは語った。
この市民との絆はアーティストたちに大きな印象を与えた。「南米の大きな都市に住んでいると、人々はみんな知らない者同士です。しかし、甲府ではみんながお互いを知っています。私も地域の一部になれたと思います。だから、私達は親切にしてもらっただけ恩返しがしたいと思います。それはとても美しくて、大切な関係です。」とマリンさんは語る。
彼女たちの日本での「困難についての物語」は、「友情と善意の物語」に変わった。
マリンさんは、他のアーティストと渡辺さんについて「彼女たちのことは姉妹のように思います。お互いがそれぞれありのままでいられるから、私達はチームです。」と語った。
しかし、すべての物語には終わりがある。
クレアさんとカンポスさんは、2021年1月中には帰るための手立てを探して帰国する予定だ。一方マリンさんは「一目惚れした」という日本に、留学ビザに変更して滞在を続けるという。
3人の甲府での生活は終わりに近づいている。
「それについて考えると感傷的になります」クレアさんは目に涙を浮かべて話した。そして次のように言葉を結んだ。 「この(コロナ禍での)経験は誰にも奪えません。これは一生モノの宝物です。」